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『シルマリルの物語』

新版 シルマリルの物語

あまりの分厚さに読むのをためらっていたのですが、ようやく読了。

「指輪物語」より更にずっと昔、トールキンによる創世神話とでも言うべきもので、世界の始まりからエルフや人間の出現、「指輪」の舞台となる第三紀までの世の変遷がエピソード群の形で綿々と語られて行きます。

全体としてはとんでもなく壮大な物語でありながら、異常なほど緻密に設計されているのには、よくもまあこんなものを一人で・・・と殆ど呆れてしまいます。これ程までになると却って「出来過ぎ」とすら思えて来てしまう位。ほら、実際の神話や伝説だと「なんだそりゃ?」と思わずツッコミたくなるようなぶっ飛んだお話が結構あるじゃないですか。

エピソード単位でみると、もっぱらの主役はエルフ達で、そこに神々(ヴァラール)や人間達が絡んでゆくといった趣です。このエルフ達は若々しく活発で、「指輪」のエルフ達とは随分違ったイメージ、まさに「青春期のエルフたち(訳者あとがきより)」で、とても人間臭いドラマを繰り広げてくれます。数あるエピソードの中では「ベレンとルーシエンのこと」「トゥーリン・トゥランバールのこと」がとりわけ印象的でした。とても美しいお話と、悲しいお話。

一日に一章ずつのペースで読み進めたのですが、読み終えてしまうのがちょっともったいないように感じられた、そんな作品でした。本の分厚さで敬遠している方(?)は是非。

『新版 シルマリルの物語』
J.R.R.トールキン著:田中明子訳
評論社