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『ドン・キホーテ』

ドン・キホーテ〈後篇3〉 (岩波文庫)

田舎紳士ドン・キホーテと従士サンチョ・パンサによる冒険を描いた、セルバンテスの有名な作品です。

冒険とは言っても、そのほとんどはドン・キホーテの狂気や周りの者の作為によって仕立て上げられたもので、実際に華々しい活躍をするといったくだりはほぼ皆無です。偽りの冒険と、それに伴い交わされる登場人物たちの会話の内容を楽しむ、といった感じでしょうか。物語終盤、真の冒険に遭遇しながらも精彩を欠くドン・キホーテに対し「虚構の世界でのみ有効な、しかし現実の前では崩れ去る存在であったのだ」と指摘する訳者解説は印象的でした。

物語は大きく前編(1~3)と後編(4~6)に分かれ、描かれた年代にだいぶ開きがあるものらしく、趣も随分異なります。

前編においては、セルバンテスの視点は周りの正気な人々―司祭や親方など―の側にあり、ドン・キホーテの突飛な言動を面白がりつつも愛情をもって眺めている、といった風なのですが、後編になるとドン・キホーテは作者の分身としての性格が強くなり、自身の境遇や主張がより濃く投影されているように感じられます。それだけに面白可笑しくは書かれていても、滑稽というよりは深刻な、どこかやるせなさの漂う・・・そんな印象を受けました。

騎士道物語のパロディ云々というより、ドン・キホーテという人物を創り出した事そのものを偉業と言うべきで、全6巻という結構な分量ながら興味のある人にとっては読む価値があるかと思います。訳も素晴らしく「それがし~でござる」調が気になる人は気になるかもしれませんが、明快でリズムがあって、とても読み易いものとなっています。

『ドン・キホーテ(全6巻・岩波文庫)』
セルバンテス著/牛島信明訳
岩波書店