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『Bouguereau』

Bouguereau

久しぶりに画集を購入。19世紀フランスアカデミズムの超絶技巧画家たるブーグローです。

ブーグローのどこらへんに惹かれるのか。ひとつはどこか翳りのある表情、でしょうか。結構子供の絵なんかも描いているのですけど、大体なにかを抱えている表情をしている。モデルが緊張してたんじゃね?というのはこの際なしの方向で。屈託ない笑顔もあるにはあるものの、逆にそういう絵はあまり面白くないように感じます。

もうひとつはきめ細やかな肌の質感と・・・肉感(笑)。 絵画として理想化されながらも、妙ななまめかしさがあるのですね。特にお腹のぽっこり具合をこれほど絶妙に描ききった画家を、私は他に知りません。うむ。

印刷の質はとても良いと思います。その分、WEB画像で見ていた分には気にならなかったちょっとした不自然さみたいなものが気になったりもしましたが。モデルにポーズを取らせて架空の場面を描き出すという手法は、描写に一切妥協がないだけにどうしても不自然な部分も出て来るのでしょう。とは言えこれだけの画家、知ってる人は知っている的ポジションに追いやられているのはちょっと残念な気もします。

『One Hundred Aspects of the Moon: Japanese Woodblock Prints by Yoshitoshi』

One Hundred Aspects of the Moon: Japanese Woodblock Prints by Yoshitoshi

最近興味を持っている画家に、月岡芳年(大蘇芳年)がいます。彼の絵を初めて見たのは「血まみれ芳年」のイメージで真っ赤っ赤な絵が紹介されていたもので「うわ、勘弁」という感じだったのですけど、実は物語や歴史・伝説上の人物の一場面を描いたものが数多くあり、これが大層面白い。大胆な構図やそれまでの浮世絵の文法をぶっ壊すようなリアルなポーズなどなど、中でも画面を目一杯に使うやり方や手前の人物に関連づけた遠景の処理などはどこかウォルター・クレインあたりを思わせるところもあって、ひょっとしたらどこかで繋がりが・・・などと妄想してみたりするのでした。

本書の原題は『月百姿』。月に絡めた100に及ぶ作品群です。全部が全部空に浮かぶお月様という訳ではなくて兜の三日月形の前立なんかも混じっているあたり、センスを感じます。この画集については先に述べたクレインっぽい感じとは少々趣が異なり、よりシンプルな構図の妙が楽しめます。

もっと色々な作品を見てみたいなあ、と探してみて見つけたのがこちらのサイト。個人的に制作されたサイトのようですが、月岡芳年に限らず驚くばかりの充実っぷりです。なお、該当ページに直接リンクを張らせていただきました。

2009/06/10追記

奇しくも太田記念美術館にて、6/26まで『 芳年-「風俗三十二相」と「月百姿」-』なる展示が行われているようです。スケジュール的に微妙だけど・・・これは観たい! 

2009/06/24追記

観て来ました!やはり現物を観るとまた違った印象を受けますね。あんなに細かいとは思ってなかったなあ。いや凄い。

『The Book of Pirates』

The Book of Pirates

ハワード・パイルによる、幾つかの海賊の物語とイラストを収録した一冊。正直に書きますがテキストの方は全く読んでいないのでどんな内容か分かりません(汗)イラストは相当の数が収録されており、油絵・版画・ペン画といずれも見ごたえのあるものばかりです。油絵については一部を除くとモノクロの割合が多く、カラーもあまり質が良いとは言えないのが残念ではあります。個人的に一番好きなのはペン画で、デザイン的な構図や現代のマンガを思わせる大胆な簡略化、デフォルメなどには思わず唸らされるものがあります。

まあ本来はテキストも読んでなんぼでしょうが、そうバカ高い本でもないのでパイル大好きっ子な方なら買っても損はないかと思います。ちなみにこれ、「海賊」の挿絵を描かせていただいた際に購入したのですけど、パイルのイラストはそれぞれが「一枚の絵」として高度に完成されているので「資料」としては期待したほど役に立ちませんでした。。

『ペンで描く―スケッチから細密描写まで』

Web拍手でいただいたコメントでペン画の技法に関するものがありましたので、私が世話になっている書籍をご紹介します。参考になれば幸いです。

『ペンで描く―スケッチから細密描写まで』
A.L.グプティル著
マール社

ペン画について基本的な事から高度な表現まで網羅した、詳細な解説書です。現代のマンガの表現とはやや立ち位置が異なるものの、マンガを描く人にとっても参考になる部分は多いのではないでしょうか。

まず入口ではペンによる線の引き方やクロス・ハッチなどの様々なトーン表現について、練習方法も含めて丁寧に解説されています。

続いて構図の取り方や濃淡によるコントラストの表現など、絵全般に通ずる基本的な知識と技法。おそらくデッサンの基礎的な知識があるとなお良いのでしょうが、作例も豊富で分かりやすい内容です。

更には植物や建物など具体的な事物について、その表現方法を多数の作例と他の画家による作品をも交えて解説しています。思うにこの作品のチョイスが大変秀逸で、絵のジャンル・画風ともにいずれもハイレベルなものが多岐に渡って掲載されています。著者による解説・作例自体、同じ物を描くにも無数の表現手法があるという前提に立ったものであり、ペン画の奥深さを感じさせてくれるものとなっています。

ペン画の技法書についてはこれ以外読んだ事がないのですが、私自身はこれ1冊で十分という感じです。どう描いたものかと悩んだ時など、見返してみるといつも何かしらの示唆を与えてくれます。

『白鳥とくらした子』

白鳥とくらした子

少女と白鳥の王の物語。不幸な境遇におちた少女は、かつて彼女の父が助けた白鳥に見守られて健やかに成長していきます。

とても可愛らしく、著者の愛情が感じられる物語です。子供に読み聞かせてあげたくなるような。シシリー・メアリー・バーカーと言えば花の妖精のイラストで有名ですが、本書にもカラー及びモノクロの挿絵がついています。特に12点の水彩によるイラストはどれも繊細で非常に美しく、子供向けだけに限定してしまうのは勿体ない位素晴らしいものです。

『白鳥とくらした子』
シシリー・メアリー・バーカー著/八木田宜子訳
徳間書店

『The Paintings of John Singer Sargent』

The Age of Elegance: The Paintings of John Singer Sargent (Phaidon Miniature Editions)

ジョン・シンガー・サージェントは19世紀後半~20世紀前半にかけて活躍したアメリカの画家。実はかなり最近まで知りませんでした・・・

大胆な光の捉え方や確かながらも硬くなり過ぎない造形等、とんでもない上手さを持った大変素晴らしい画家と思うのですが、日本での受容度は今ひとつのような・・・肖像画家として一段低く見られてしまっているとか? 最近まで知らなかったからって自分を基準にしちゃいけませんかね(汗 ともかく単に滅茶苦茶上手いというだけではなく、人物の眼に深みがあってとても印象的だと思うんです。

本書も先のウォーターハウス同様のポケットサイズです。こちらはもう少し大きいサイズで見たい気もしますね。

『The Art of J.W. Waterhouse』

Myth and Romance: The Art of J.W. Waterhouse (Phaidon Miniature Editions)

最も好きな画家のひとりであるウォーターハウスの画集です。どこが好きかと言ったらやはり彼の描く女性達の上品でやや翳りのある顔つき。描き過ぎないとこも好きです。大抵ざっくりした部分が残ってる。

この本は小さなポケットサイズですが、絵によっては全体図と部分のアップを載せてあったりして充分に楽しめます。ちなみに特に好きな絵は「The Lady Clare」「The Shrine」など。本書にも収録されています。

『Rackham's Color Illustrations for Wagner's "Ring"』

Rackham's Color Illustrations for Wagner's

前日の記事からの流れでご紹介。「ニーベルングの指輪」をイラスト化したもので、60点余りのカラーイラストと数点のモノクロカットが収められています。どの絵も登場人物の神秘的な表情と躍動感が素晴らしく、大変魅力的です。私は原作の内容を知らずに購入してそれでもいたく感動したものですが、知っていればより一層楽しめることでしょう。

印刷は上質とはいいかねますが、とりあえず見るのに支障はないと思います。少し暗部がつぶれ気味のような気も。原画を見たことないのでわかりませんけど。

ところで、作中例の羽の付いたカブトを被ったワルキューレが大勢登場します。実際にこのようなデザインがあったわけではなくて画家の創作が定着したものらしいですが、誰が元祖なんでしょうね。そう言えばギリシア神話の神ヘルメスもよく羽付きの兜だか帽子だかを被っています。なにか関係あるんだろうか・・・と、少々脱線でした。

『不思議の国のアリス』

不思議の国のアリス

内容については今更説明するまでもないでしょう。本書ではアーサー・ラッカムの挿絵が収録されています。アリスはちょっぴりおしゃまな感じ、地下の住人たちはリアル・・・というより時にグロテスクとすら思われる存在感をもっていきいきと描かれています。動物達の描写にはなんとなく北斎を思い出しました(いや、似てはいませんけどね)。とても美しくはあるものの、子どもが見たら怖がるんじゃなかろうかとちょっと心配にならないでもなく。

それにしてもカラーの挿絵は以前にもみていたのですが、挿絵本来の形―物語を読みながら目にすると、一段と魅力的です。さらに本文中ペンで描かれたモノクロのカットも多数挿入されており、これらがまた大層素晴らしい。より軽妙とでもいいますか。挿絵画家ラッカムの力を再認識いたしました。

しかし今更とは言いましたがこのお話、改めて面白いというか可笑しいですね。久しぶりに漫画ではなく読書で声を立てて笑ってしまいました。

『不思議の国のアリス』
ルイス・キャロル/高橋康也・高橋迪 訳
新書館

『シェイクスピア物語』

シェイクスピア物語

書店でぺらぺらとめくっていたら、挿絵がアーサー・ラッカムだったので衝動買い。作品自体は19世紀初頭に出版されたものの和訳で、シェイクスピアの有名作11篇が散文の物語に仕立てられています。各々はそれこそあらすじ程度の分量ですが、「こういうお話」というのがわかりやすくまとめられていると思います。

ラッカムの挿絵は「夏の夜の夢」「冬物語」「お気に召すまま」「ヴェニスの商人」「リア王」「マクベス」「十二夜」「ロミオとジュリエット」「ハムレット」の計9点。割とリラックスした感じのペン画ですが、皆とてもいい表情をしています。中でも「十二夜」のヴァイオラ、ちょっと困っちゃったような表情と仕草がお気に入り。この作品は未読だけど面白そうなので今度読んでみよう。

『シェイクスピア物語』
ラム著:矢川澄子訳
岩波少年文庫