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『世界のかなたの森』

世界のかなたの森 (ウィリアム・モリス・コレクション)

ウィリアム・モリスというと装飾デザイナーとしての業績がまず思い浮かびますが、同時に経営者であり思想家であり詩人でもあった、大変多才な人物です。

本書は中世ロマンスを思わせる作品で、どことなく「ジェレイントとエニド」や或いは「妖精の女王」などとも通ずる雰囲気を持っています。話の筋自体はどうってことのないもので、馴染めない方には退屈かもしれません。私自身も前半は少々退屈してたのですが、徐々に引き込まれました。こういう不思議な雰囲気のある物語は好きです。

『世界のかなたの森(ウィリアム・モリスコレクション) 』
ウィリアム・モリス著/小野二郎訳
晶文社

『ジークフリート伝説 ワーグナー『指輪』の源流』

ジークフリート伝説 ワーグナー『指輪』の源流

多くの文芸作品で扱われているニーベルンゲン・ジークフリート伝説について述べた、大変読み応えのある本です。「ヴォルスンガ・サガ」「ニーベルンゲンの歌」等を経て、ワーグナーの「ニーベルングの指輪」でクライマックスを迎えるという構成。古今の作品のあらすじ・特徴などのわかりやすい解説を読んでいく中で、作品の枠を越えた伝説そのものの性格や変遷ぶりが浮かび上がってきます。

個人的に嬉しかったのは「指輪」四部作のあらすじが結構くわしく、且つわかりやすく書かれている点。尻込みして手を出せずにいるのですが、ワーグナーってスゴイんだなあというのが本書を読んでの素直な感想です。うーん、やっぱ一寸観てみたい。

『ジークフリート伝説 ワーグナー『指輪』の源流』
石川栄作著
講談社学術文庫

『ドラゴンランス』

ドラゴンランス(6) 天空の金竜

たぶん古典に分類されるんであろう作品。天から帰還した暗黒の女王に立ち向かう、さまざまな種族からなる仲間たち。女王の僕である邪悪なドラゴンを倒すために、タイトルにある伝説のドラゴンランスを蘇らせ・・・てな具合に話は展開します。

作品の一番の魅力は、今やファンタジーの世界ではお約束とも言えるキャラクター達でしょう。ドワーフ、エルフ、人間の騎士などなど、それぞれの行動規範にのっとって存分に活躍してくれます。もっとも「全員」が魅力的というわけにも行かないようで・・・よりによって主人公とも言うべき、一行のリーダーであるタニスに全く魅力が感じられませんでした。

彼には、ハーフエルフの私生児という出自だったり人間・エルフの女性との三角関係だったりと、そこらの脇役とは訳が違うと言わんばかりの設定が付与されています。恐らく作品に幅と深みを出そうという意図があったと思うのですけど、この点については成功しているとは言いがたいんじゃないでしょうか。彼が前面に出てくると途端に読むのがおっくうになるんですよね。書き手が設定を消化するのに手一杯という感じで、これは全く個人的な感想でもなかろうと思うのですが。

他にも、お前よりレイストリン(魔法使い)の方がよっぽど役に立ってるじゃん、とか言いたいことはまだ出てきそうなんですけど、他のキャラクターの活躍はそうしたことを補って余りあるものですし、ドラゴンの大部隊というモチーフは想像力を大いに刺激してくれます。作品自体は大変面白かったので悪しからず。

『ドラゴンランス』1~6巻
マーガレット ワイスほか 著/安田 均 訳
エンターブレイン

『アイスウィンド・サーガ』

アイスウィンド・サーガ〈1〉 悪魔の水晶

ダークエルフの主人公ドリッズトとその仲間たちが活躍する物語です。舞台となるフォゴットン・レルムはダンジョンズ&ドラゴンズというテーブルトークRPGのために設定された世界。

様々な部族が入り乱れての大規模な攻城戦は、指輪物語のヘルム峡谷の戦いを彷彿とさせますが、戦闘が序盤と終盤、同じ場所で全く異なるシチュエーションで繰り広げられるのがミソです。物語の進め方としてはイベントの発生→解決の繰り返しで結構ワンパターンというか、良くも悪くもゲームっぽい印象を受けるのですけど、そんな事はお構いなしで先を読みたくなる面白さがあります。

この作品、廃刊になっていたシリーズを順次復刊させているようなのですが、現在出ているのは3巻まで。エピソードとしてひと区切りついてはいるものの、早く続きが読みたいもんです。

『アイスウィンド・サーガ』1~3巻
R.A.サルヴァトーレ著/風見潤 訳
アスキー/エンターブレイン

『不思議の国のアリス』

不思議の国のアリス

内容については今更説明するまでもないでしょう。本書ではアーサー・ラッカムの挿絵が収録されています。アリスはちょっぴりおしゃまな感じ、地下の住人たちはリアル・・・というより時にグロテスクとすら思われる存在感をもっていきいきと描かれています。動物達の描写にはなんとなく北斎を思い出しました(いや、似てはいませんけどね)。とても美しくはあるものの、子どもが見たら怖がるんじゃなかろうかとちょっと心配にならないでもなく。

それにしてもカラーの挿絵は以前にもみていたのですが、挿絵本来の形―物語を読みながら目にすると、一段と魅力的です。さらに本文中ペンで描かれたモノクロのカットも多数挿入されており、これらがまた大層素晴らしい。より軽妙とでもいいますか。挿絵画家ラッカムの力を再認識いたしました。

しかし今更とは言いましたがこのお話、改めて面白いというか可笑しいですね。久しぶりに漫画ではなく読書で声を立てて笑ってしまいました。

『不思議の国のアリス』
ルイス・キャロル/高橋康也・高橋迪 訳
新書館

『仔犬のローヴァーの冒険』

仔犬のローヴァーの冒険

トールキンによる、『ホビットの冒険』や『指輪物語』に先立つ初期の作品です。意地の悪い魔法使いにちょっかいを出したために小さなおもちゃに姿を変えられてしまったローヴァーが、さまざまな冒険に巡り会う・・・というお話。

もともとは自分の子供達に語って聞かせた物語を膨らませていったものだそうです。実際、序盤では荒唐無稽なほら話というのが率直な印象でしたが、物語が進むにつれスケールは大きくなり、緊密度も増してぐんと面白くなってきます。登場する三人の魔法使いがそれぞれどことなくガンダルフを連想させるのも魅力のひとつと言ってよいでしょう。キャラクターとしてより原始的な分、「偏屈なじいさん」的な性格がより強く出ている気がします。

『仔犬のローヴァーの冒険』
J.R.R.トールキン著/山本史郎訳
原書房

『シェイクスピア物語』

シェイクスピア物語

書店でぺらぺらとめくっていたら、挿絵がアーサー・ラッカムだったので衝動買い。作品自体は19世紀初頭に出版されたものの和訳で、シェイクスピアの有名作11篇が散文の物語に仕立てられています。各々はそれこそあらすじ程度の分量ですが、「こういうお話」というのがわかりやすくまとめられていると思います。

ラッカムの挿絵は「夏の夜の夢」「冬物語」「お気に召すまま」「ヴェニスの商人」「リア王」「マクベス」「十二夜」「ロミオとジュリエット」「ハムレット」の計9点。割とリラックスした感じのペン画ですが、皆とてもいい表情をしています。中でも「十二夜」のヴァイオラ、ちょっと困っちゃったような表情と仕草がお気に入り。この作品は未読だけど面白そうなので今度読んでみよう。

『シェイクスピア物語』
ラム著:矢川澄子訳
岩波少年文庫

『ロビン・フッドのゆかいな冒険』

ロビン・フッドのゆかいな冒険〈1〉

ハワード・パイルの作品。以前岩波新書の『ロビン・フッド物語』について書いた際に触れた、『ノッティンガム州の高名なるロビン・フッドの愉快な冒険』がこれです。

バラードや断片で伝わるロビン・フッドの伝説を「はじめてちゃんとした長いお話に書いた(訳者あとがき)」ものだそうで、マリアンは登場せず、全編どちらかといえば粗野で少々荒っぽい感じです。でも、むしろそれがとても生き生きとしたものに感じられます。

文・絵共にパイルによるものですが、以前目に止まった絵も素晴らしい。様式的なやや古くさいスタイルではあるものの、表情豊かな登場人物たちが完璧な構図の中におさまっているこれらのイラストは、物語の面白さを一層引き立てています。訳も雰囲気がよく出ていますし、少年文庫となっていますが大人も十二分に楽しめる作品だと思います。

『ロビン・フッドのゆかいな冒険』(全2巻)
ハワード・パイル著:村山知義・村山亜土訳
岩波少年文庫

『タイムライン』

タイムライン〈上〉

映画版の感想を書いた際にお薦めいただき、以来気になっていたのですがようやく読了。

最新テクノロジーで14世紀にタイムスリップした一行が事件に巻き込まれる話なんですが・・・映画版は物凄くアレンジされているんですね。一緒なのはほとんど始めと終わりだけという(笑) 個人的には映画から観てよかった気がします。両方楽しめましたので。読んでから観てたら「えええ~何これ?」てな事になりそう。

映画と比べて展開は複雑で描写も細かいんですけど、中でも現在では○○と考えられているこれこれが実際は××だった・・・という描写は文章の方がより効果的ですね。映像だと臨場感がある一方、どうしても一種のファンタジーとしてとらえてしまう面があるのですが、文章にされるとつい「へえ~そうだったんだ」と了解してしまいます。

『タイムライン』(文庫版)
マイケル・クライトン著:酒井昭伸訳
ハヤカワ書房

『トリスタン・イズー物語』

トリスタン・イズー物語

トリスタンとイゾルデの物語をまとめた作品で、19世紀末に出版されたもののようです。トリスタンの誕生から死に至るまで、中世のベルール、トマ等による断片を元にまとめたもので、その断片の幾つかは先日記事を書いた『フランス中世文学集1 信仰と愛と』に収録されています。読む順序が思い切り逆でした・・・

まとめ方が上手いのか訳が良いのか、とにかくさくさくと読めますのでおすすめです。