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『フランス中世文学集1 信仰と愛と』

『愛と剣と』と同じシリーズの第1集。『ロランの歌』、トリスタンもの数篇、トルバドゥールの歌集などが収録されています。

メインはトリスタンものという事になるのでしょうが、いずれも断片です(原作自体残っていないそうです)。これだけで物語全体の概要をつかむのは不可能ですし、内容に関してもまあよくもぬけぬけと・・・なものばかりですので(笑)、かなりコアなファン向きかと思います。

『ロランの歌』は8世紀の史実に題材を採った英雄叙事詩。文字で読むと定型的な言い回しが多くてやや冗長に感じられるものの、合戦の場面などは平家物語を思わせるような高揚した調子があり、読み応えがあります。訳者の方も日本の軍記物を意識されたとか。個人的にはこれが一番良かったかな。

トルバドゥールの歌はかなりの数が収められているのですが、当時の空気を感じさせてくれる・・・という訳には行かず、流し読みしてしまいました。

『フランス中世文学集1 信仰と愛と』
新倉俊一ほか訳
白水社

クレティアン・ド・トロワ『獅子の騎士』 フランスのアーサー王物語

クレティアン・ド・トロワ『獅子の騎士』―フランスのアーサー王物語

『ランスロ』『ペルスヴァル』同様、クレティアン・ド・トロワによるアーサー王ものについて研究したもので、作品の日本語訳も収録されています。『獅子の騎士』はイヴァン(オーウェイン、イウェイン)が妻の怒りを買い、あてもなく冒険を繰り広げる途上でライオンを助けて・・・てなお話。『ランスロ』などと比べるとファンタジー度の高い、とても面白い物語です。

『ペルスヴァル』もそうですが、この『獅子の騎士』は『マビノギオン』に同じ題材による物語があります(「泉の貴婦人」)。両者とてもよく似ているのですが、本書によると底本を同じくして制作された別個の作品であり、両者に直接の関係はないとのこと。著者は『獅子の騎士』を数段上に置いているようで、実際構成の緻密さなどは私のような素人にも感じられるのですけど、面白さという点では「泉の貴婦人」もそう劣るものではないと思います。より幻想的とでもいうのでしょうか。

ともあれ、なかなか読みごたえのある一冊ですなのですが、残念なことにAmazonで見る限り新品の入手は困難のようです。私は図書館で借りて読みました。

クレティアン・ド・トロワ『獅子の騎士』 フランスのアーサー王物語
菊池淑子 著
平凡社

以下はちょっと脱線ぎみの話。

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『フランス中世文学集2 愛と剣と』

全3巻のうちのひとつ。クレチアン・ド・トロワの『ランスロまたは荷車の騎士』『ペレスヴァルまたは聖杯の物語』が収録されています。クレチアン・ド・トロワは12世紀の詩人。アーサー王にまつわる物語詩を多数残しており、後世への影響も非常に大きいようです。色々な本で名前を目にするので、かねてから読んでみたいと思っていました。

『ランスロまたは荷車の騎士』

攫われた王妃を救い出すため、ラーンスロット(ランスロ)が冒険を繰り広げるお話。当時荷車は罪人が乗せられるもので、これに乗るのは大変な恥であったとか。これに絡めて物語が展開します。調子は割合軽めで、山あり谷あり、情勢は目まぐるしく変化し、楽しませる事が第一とされている印象です。中世版昼ドラとでもいったところでしょうか。

『ペレスヴァルまたは聖杯の物語』

聖杯の謎を解き明かすべく、パーシヴァル(ペレスヴァル)が冒険を繰り広げるお話。もう一人の主人公と言うべきガウェイン(ゴーヴァン)の冒険と並行して物語が展開します。話のスケールが大きく、調子もややストイック。『ランスロ』が昼ドラならこちらは大河ドラマさながら、引き込まれつつ読んでいました・・・。残念な事に、未完のまま終わっています。書いてる最中に倒れてそのまま亡くなったんじゃないかと思うほど、唐突な中断です。話の盛り上がってきたところで・・・

これらの他に恋愛詩の小品が3篇収められています。上記2作にも共通しますが、情景や人物の装いに関する具体的な描写が多く、そういった面でも大変興味深く読みました。

『フランス中世文学集2 愛と剣と』
新倉俊一ほか訳
白水社

『ニーベルンゲンの歌』

ニーベルンゲンの歌〈前編〉

13世紀のドイツで成立した、有名な叙事詩。一言で言えば復讐劇、それも半端でない、兄妹親族相争う血みどろの復讐劇です。

本書の解説によると「ドイツのイリアス」とも称せられるほどの作品なのですが、勇壮・華麗よりも陰鬱・無惨の気が濃く、好きなタイプのお話とは正直言い難いです。肝心の復讐の動機についても、夫の殺害に加え財宝の強奪という二つの要素があるために、王妃クリエムヒルトの言動が今ひとつ弱いというか、定まらない印象を受けます。口承文学ならではの定型的な繰り返しが読んでくどいと感じられる部分も少なくありません。

それでも何だかんだ言って結局面白いのは確かですし、多数の登場人物のうち、何人かの死に様には心を打たれるものがあります。ちなみに死なない人の方が圧倒的に少なかったりします・・・

ところでこの物語、完全な創作というわけではなく、5世紀頃の史実に古くからの伝承を交えて成立したもののようです。より原始的な姿を伝えるものとして「ウェルスンガ・サガ」なる作品があるそうなんですが、日本語で読めるのかどうかは不明。ジークフリートやブリュンヒルデ、彼等の登場する伝説群はなかなか面白そうですし、いずれじっくり読んでみたいものです。

ケルトの本とDVD

同じテーマで内容・構成に共通する部分も少なくないので合わせてご紹介。

『 THE Celts 幻の民ケルト人 』

1986年、英BBCで放映されたTV番組のDVD化。
全6回分の2枚組みで、トータルでは5時間超。

ケルトの歴史について、豊富な映像を交えて解説した番組です。映像としては各地の出土品やウェールズ・アイルランドなどの自然と建造物、当時の暮らしの再現映像などなど。ほとんどが屋外のロケで構成されているほか、再現映像も本格的な感じでかなりお金をかけている印象です。内容的には現代との関連に重点が置かれており、廃れてしまったものと今に伝わるもの、そういう面でも興味深く観られました。

番組のイメージソングとしてエンヤの曲が使われており、彼女のインタビューも収録されています・・・が未見。ちなみにこの番組、かつて(1989年・・・)NHK教育でも放送されたそうです。

『図説 ケルトの歴史』

図説 ケルトの歴史―文化・美術・神話をよむ

写真だけ眺めてそのままになっていたのをようやく読みました。上の番組と割合似た構成ですが、こちらは主に美術・文学など創造的な活動に焦点を当てている印象。絵画と神話に関してはより詳しく解説されています。写真も豊富。

『図説 ケルトの歴史』
鶴岡真弓・松村一男著
河出書房新社

『イギリス美術』

イギリス美術

イギリス美術、特にルネサンス以降の絵画について解説した本。他国のそれとの違い・独自性について詳しくのべられており、誰がどういった位置付けをされているのかがよくわかります。

とはいえ幅広く採り上げている分、名前が出てくるのは代表的な画家に限られています。アルマ=タデマの名があってもウォーターハウスは無く、ビアズリーの名があってもラッカムは無く。一番関心のあるところなんですけど、こういう「流れ」の中には入って来ないみたい・・・

『イギリス美術』
高橋裕子著
岩波新書

『イギリス古事民俗誌』

イギリス古事民俗誌

原著は1865年に刊行されたもので、1年365日それぞれにつき、関連する古事・慣習を綴ったものだそうです。これはそのうち40余りの抄訳。懲罰用の水責め器具や弓術に関する叙述、ハロウィーンのリンゴ遊び('Bobbing for Apple'というようです)・・・今も変わらず伝わっているものから19世紀当時の様子がうかがわれるものまで、なかなか面白く読めました。

『イギリス古事民俗誌』
ロバート・チェインバーズ著:加藤憲市訳
大修館書店

『中世ヨーロッパの城の生活』

中世ヨーロッパの城の生活

中世ヨーロッパ、特に英国の城についての本。構造など外面的な部分よりは当時の人々にスポットを当て、平時の生活や戦時の行動の様子が今に残る文献の引用を交えて生き生きと描き出されています。城の支出の内訳から、鷹狩りのタカの訓練法、篭城時の水の確保などなど・・・あんまり詳しくて、面白いとは言いがたい叙述の続く箇所もあったりしますけれども、読み応えは十分です。

『中世ヨーロッパの城の生活』
ジョセフ・ギース、フランシス・ギース著:田中明子訳
講談社学術文庫

Amazonのアソシエイト・プログラムに登録してみました。過去の記事についても順次リンクを張っていこうと思っています。あまりうるさくならない程度に。

『シルマリルの物語』

新版 シルマリルの物語

あまりの分厚さに読むのをためらっていたのですが、ようやく読了。

「指輪物語」より更にずっと昔、トールキンによる創世神話とでも言うべきもので、世界の始まりからエルフや人間の出現、「指輪」の舞台となる第三紀までの世の変遷がエピソード群の形で綿々と語られて行きます。

全体としてはとんでもなく壮大な物語でありながら、異常なほど緻密に設計されているのには、よくもまあこんなものを一人で・・・と殆ど呆れてしまいます。これ程までになると却って「出来過ぎ」とすら思えて来てしまう位。ほら、実際の神話や伝説だと「なんだそりゃ?」と思わずツッコミたくなるようなぶっ飛んだお話が結構あるじゃないですか。

エピソード単位でみると、もっぱらの主役はエルフ達で、そこに神々(ヴァラール)や人間達が絡んでゆくといった趣です。このエルフ達は若々しく活発で、「指輪」のエルフ達とは随分違ったイメージ、まさに「青春期のエルフたち(訳者あとがきより)」で、とても人間臭いドラマを繰り広げてくれます。数あるエピソードの中では「ベレンとルーシエンのこと」「トゥーリン・トゥランバールのこと」がとりわけ印象的でした。とても美しいお話と、悲しいお話。

一日に一章ずつのペースで読み進めたのですが、読み終えてしまうのがちょっともったいないように感じられた、そんな作品でした。本の分厚さで敬遠している方(?)は是非。

『新版 シルマリルの物語』
J.R.R.トールキン著:田中明子訳
評論社

『図説 アーサー王伝説物語』

図説 アーサー王伝説物語

古本屋で安く売っていたので購入。収録されているエピソードは割と有名なものが中心ですが、それぞれの出典や出典元ごとの相違・変遷、エピソードが形成された背景や意図などについて詳しく解説されており、読み応えのあるものでした。

ラッカム、アラン・リーをはじめとして、絵画やイラストが豊富に収録されているのも魅力です。むしろ購入時のお目当てはこちらだったり(笑

図説 アーサー王伝説物語
デイヴィッド・ケイ著:山本史郎訳
原書房

以下、気になった画家達をメモ。

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