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『ケルト神話 黄金の騎士フィン・マックール 』

ケルト神話 黄金の騎士フィン・マックール (ケルト神話)

アイルランドの伝説上の英雄フィン・マックールと彼の率いるフィアンナ騎士団の物語。個々に伝わる物語を著者のサトクリフがひとつの大きな物語に仕立て上げたもののようです。妖精族(ダナン族)や魔法が頻繁に登場し、全体を通じて幻想的な雰囲気に満ちています。貞節に欠ける妻との恋に落ちる腹心の部下、大きな戦による劇的な最期など、アーサー王の物語を思わせるモチーフも随所に見られ、どういった関連があるのかちょっと興味深いところです。楽しめる物語だと思います。

『ケルト神話 黄金の騎士フィン・マックール 』
ローズマリー・サトクリフ著/金原瑞人・久慈美貴訳
ぽるぷ出版

『ジョン・ボールの夢』

ジョン・ボールの夢 (ウィリアム・モリス・コレクション)

語り手である「私」が14世紀イギリスは「ワット・タイラーの乱」渦中の村にタイムスリップし、指導者のジョン・ボールと対話するというお話。

モリスの社会主義思想がモロに反映されていますが、思想的側面に関心がなくとも(私はそう)、普通に歴史小説として楽しめます。本当に見てきたかのような、しつこい位に細かい描写には恐れ入るばかりで、その綿密な事といったら彼の描く装飾文様さながらです。まあこの辺は彼の魅力のひとつである反面、とっつきにくさにも繋がっている気がしないでもありません。装飾文様を形づくる線一本一本を目で追うようなしんどさ、とでも言いましょうか(^^;

当時の社会制度や弓を主体とした戦術に関するものなど、注釈が大変充実しています。

『ジョン・ボールの夢』
ウィリアム・モリス著/横山千晶訳
晶文社

『シャルルマーニュ伝説』

シャルルマーニュ伝説 中世の騎士ロマンス (講談社学術文庫)

8世紀フランスに実在したシャルルマーニュ(カール大帝)とその配下の騎士たちの活躍を描いた物語。15~16世紀にイタリアの詩人によって作られた複数の叙事詩をブルフィンチがまとめた、という性質のものです。

国王とその取り巻きの物語、という点はアーサー王の物語とも共通していますが、円卓のような仕掛けもなくグィニヴィアのような強烈な后も登場せず、物語をとりまとめる求心力は今ひとつ弱い気がします。さらに上記の成り立ちもあってか、時と場所がコロコロ変わるので前の展開を忘れてしまうことも。

しかしながら個々の登場人物とエピソードはそれぞれ魅力的です。全体的には暗い基調の話が多い印象ですが、とりわけロジェロやオルランドの物語のクライマックスはグッと来るものがありました。フランス中世文学集に収録されている「ロランの歌」はこのオルランドの最後の戦いを歌ったもので(ロランはオルランドのフランス語形)、展開は両者で異なるものの、どちらも感動的です。

『シャルルマーニュ伝説』
トマス・ブルフィンチ著/市場泰男訳
講談社学術文庫

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アイヴァンホー(岩波文庫)

アイヴァンホー〈上〉 (岩波文庫)

12世紀の英国を舞台に、リチャード獅子心王に仕えるサクソン人アイヴァンホー等の活躍を描いた物語。

とにかく登場人物がそれぞれ大変魅力的です。正体不明の黒騎士に扮装したリチャードやアイヴァンホーに想いを寄せるユダヤ人の娘レベッカ、元豚飼いの従者ガースに道化のウォンバ・・・等等、主人公よりむしろ脇の人々が物語の推進力になっていると思える位(笑)。どこからどこまでが創作なのか私には分かりかねますが、当時の世情や風俗も著者の豊富な知識に基づいて活き活きと描かれています。

残念なのはこの本、現在品切で入手困難なところです。今回は図書館で借りて読んだのですが、重版になれば改めて買うんだけどなあ。訳は少々古さを感じさせますが、物語が面白いのでさほど気になりません。

このアイヴァンホーについてはいくつか映像化もされています。観た作品の感想を書いていますので関心のある方は下の記事もあわせてどうぞ。中でもBBCによる作品は、ロマンスにより重きを置いた「黒騎士」の味付けを取り入れつつ、原作を大変忠実に再現していると思います。

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『白鳥とくらした子』

白鳥とくらした子

少女と白鳥の王の物語。不幸な境遇におちた少女は、かつて彼女の父が助けた白鳥に見守られて健やかに成長していきます。

とても可愛らしく、著者の愛情が感じられる物語です。子供に読み聞かせてあげたくなるような。シシリー・メアリー・バーカーと言えば花の妖精のイラストで有名ですが、本書にもカラー及びモノクロの挿絵がついています。特に12点の水彩によるイラストはどれも繊細で非常に美しく、子供向けだけに限定してしまうのは勿体ない位素晴らしいものです。

『白鳥とくらした子』
シシリー・メアリー・バーカー著/八木田宜子訳
徳間書店

『三つの冠の物語―ヒース、樫、オリーブ』

三つの冠の物語―ヒース、樫、オリーブ

三つの短編が収められています。それぞれ舞台は異なりますがいずれにおいても二人の主要人物間の友情が描かれ、それぞれ小道具として冠が登場します。中でも第一話の「族長の娘―ヒースの花冠」が好きです。少女と捕虜の少年との、友情とも恋心ともつかない微妙な心の動きがよく描かれていると思いました。

本書も先の『ケルト神話 炎の戦士クーフリン』同様ヴィクター・アンブラスが挿画を手がけています。こちらもまた大変素晴らしいものです。

『三つの冠の物語―ヒース、樫、オリーブ』
ローズマリー・サトクリフ著/山本史郎訳
原書房

『ケルト神話 炎の戦士クーフリン』

ケルト神話 炎の戦士クーフリン (ケルト神話)

ケルト神話の英雄クーフリンの生涯を描いた物語。クーフリンは太陽神を父に持つ、アイルランド一と謳われた戦士です。

力強く、激しく、そして悲壮感の漂う物語です。クーフリンの物語を読むのは本書がほぼ初めてで(ブルフィンチの『中世騎士物語』には「アイルランドの勇士キュクレイン」として短いながらも収録されてます)、どの程度著者による脚色がなされているのかわかりませんが(あとがきによれば大変忠実に再話しているとの由)、非常にドラマチックでもあります。

エピソードの中で興味深かったのはアイルランドの英雄の称号を巡る争いの話。巨人が自分の首を切らせ、生きていたら切った相手に同じ事をさせろと要求するのですが、この逸話は『サー・ガウェインと緑の騎士』や円卓の騎士、腕萎えのカラドクのものとほぼそっくり同じです。きっと原形があってそれが各々に取り込まれているのでしょうね。それと序文において、アングロ・サクソンの英雄ベーオウルフと比較している部分も興味深く読みました。

あと個人的に特筆しておきたいのはVictor Ambrus(ヴィクター・アンブラス?)によるペン画の挿絵の素晴らしさです。全く知らなかった名前ですが、点と線・塗潰した面の織り成すリズム感や最低限の対象物を描くだけで最大限に物語を表現しているところなど、本当に凄いと思いました。

『ケルト神話 炎の戦士クーフリン (ケルト神話) 』
ローズマリー・サトクリフ著/灰島かり訳
ぽるぷ出版

『世界のはての泉』

世界のはての泉 (上) (ウィリアム・モリス・コレクション)

世界のはてにあるという神秘の泉を求めて、小国の王子が冒険を繰り広げる物語。

謎に満ちた美しい女王や主人公を支える賢者、身分は低いものの気高い娘・・・などなど、現代のファンタジーではお馴染みともいえる様ざまなタイプの人物や要素が登場します。冒険を通して主人公が逞しく成長していくところなんかもそうですね。トールキンも影響を受けたんじゃないかな~と感じる部分が読んでいて多くあったのですが、解説によると実際そうみたいです。

個人的に興味深かったのは主人公の出会いと別れ、そして再会が多くの人物について印象深く描かれている点。物語の前半、別れの場面が印象的だと思って読んでいたところ、再会に転ずる物語後半は一層面白く、先を読みたくなるだけの勢いがありました。

ファンタジーの好きな方にはおすすめできる傑作だと思います。

『世界のはての泉(ウィリアム・モリス・コレクション) 』全2巻
ウィリアム・モリス著/川端康雄・兼松誠一訳
晶文社

『アーサー王物語』

アーサー王物語 (偕成社文庫)

一応子供向けの本ということで、ユーサーとイグレインが「普通に」結婚した事になっていたりしますが、訳者の方が解説で述べられている通り硬質な文体で抵抗なく読めました。内容的にはアーサー王と円卓の騎士の活躍を追ったもので、なかでも聖杯の由来と探求について多くの紙数が割かれています。ちくま文庫版の『アーサー王の死』では削られていた部分でもあり、面白く読みました。佐竹美保さんによる挿絵も大変素敵なものです。

『アーサー王物語 (偕成社文庫) 』
ジェイムズ・ノウルズ著/金原瑞人編訳
偕成社

『輝く平原の物語』

輝く平原の物語 (ウィリアム・モリスコレクション)

婚約者を海賊にさらわれた若者の探索の旅を描いた物語。『世界のかなたの森』と同様、物語はまったりと進行しますが、婚約者の探索という解り易い目的がある分こちらの方がスムーズに入っていける気がします。登場人物のやり取りや不思議な事象など、部分的な描写はとても魅力的なものがありますし、後味の良いラストも好みでした。

また本書ではウォルター・クレインによる20数点の挿絵が収録されており、『妖精の女王』などと同じく装飾的な枠内で完璧に描き尽くされている絵はそれだけでも一見の価値があると思います。

『輝く平原の物語(ウィリアム・モリスコレクション) 』
ウィリアム・モリス著/小野悦子訳
晶文社