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『不思議の国のアリス』

不思議の国のアリス

内容については今更説明するまでもないでしょう。本書ではアーサー・ラッカムの挿絵が収録されています。アリスはちょっぴりおしゃまな感じ、地下の住人たちはリアル・・・というより時にグロテスクとすら思われる存在感をもっていきいきと描かれています。動物達の描写にはなんとなく北斎を思い出しました(いや、似てはいませんけどね)。とても美しくはあるものの、子どもが見たら怖がるんじゃなかろうかとちょっと心配にならないでもなく。

それにしてもカラーの挿絵は以前にもみていたのですが、挿絵本来の形―物語を読みながら目にすると、一段と魅力的です。さらに本文中ペンで描かれたモノクロのカットも多数挿入されており、これらがまた大層素晴らしい。より軽妙とでもいいますか。挿絵画家ラッカムの力を再認識いたしました。

しかし今更とは言いましたがこのお話、改めて面白いというか可笑しいですね。久しぶりに漫画ではなく読書で声を立てて笑ってしまいました。

『不思議の国のアリス』
ルイス・キャロル/高橋康也・高橋迪 訳
新書館

『仔犬のローヴァーの冒険』

仔犬のローヴァーの冒険

トールキンによる、『ホビットの冒険』や『指輪物語』に先立つ初期の作品です。意地の悪い魔法使いにちょっかいを出したために小さなおもちゃに姿を変えられてしまったローヴァーが、さまざまな冒険に巡り会う・・・というお話。

もともとは自分の子供達に語って聞かせた物語を膨らませていったものだそうです。実際、序盤では荒唐無稽なほら話というのが率直な印象でしたが、物語が進むにつれスケールは大きくなり、緊密度も増してぐんと面白くなってきます。登場する三人の魔法使いがそれぞれどことなくガンダルフを連想させるのも魅力のひとつと言ってよいでしょう。キャラクターとしてより原始的な分、「偏屈なじいさん」的な性格がより強く出ている気がします。

『仔犬のローヴァーの冒険』
J.R.R.トールキン著/山本史郎訳
原書房

『シェイクスピア物語』

シェイクスピア物語

書店でぺらぺらとめくっていたら、挿絵がアーサー・ラッカムだったので衝動買い。作品自体は19世紀初頭に出版されたものの和訳で、シェイクスピアの有名作11篇が散文の物語に仕立てられています。各々はそれこそあらすじ程度の分量ですが、「こういうお話」というのがわかりやすくまとめられていると思います。

ラッカムの挿絵は「夏の夜の夢」「冬物語」「お気に召すまま」「ヴェニスの商人」「リア王」「マクベス」「十二夜」「ロミオとジュリエット」「ハムレット」の計9点。割とリラックスした感じのペン画ですが、皆とてもいい表情をしています。中でも「十二夜」のヴァイオラ、ちょっと困っちゃったような表情と仕草がお気に入り。この作品は未読だけど面白そうなので今度読んでみよう。

『シェイクスピア物語』
ラム著:矢川澄子訳
岩波少年文庫

『ロビン・フッドのゆかいな冒険』

ロビン・フッドのゆかいな冒険〈1〉

ハワード・パイルの作品。以前岩波新書の『ロビン・フッド物語』について書いた際に触れた、『ノッティンガム州の高名なるロビン・フッドの愉快な冒険』がこれです。

バラードや断片で伝わるロビン・フッドの伝説を「はじめてちゃんとした長いお話に書いた(訳者あとがき)」ものだそうで、マリアンは登場せず、全編どちらかといえば粗野で少々荒っぽい感じです。でも、むしろそれがとても生き生きとしたものに感じられます。

文・絵共にパイルによるものですが、以前目に止まった絵も素晴らしい。様式的なやや古くさいスタイルではあるものの、表情豊かな登場人物たちが完璧な構図の中におさまっているこれらのイラストは、物語の面白さを一層引き立てています。訳も雰囲気がよく出ていますし、少年文庫となっていますが大人も十二分に楽しめる作品だと思います。

『ロビン・フッドのゆかいな冒険』(全2巻)
ハワード・パイル著:村山知義・村山亜土訳
岩波少年文庫

『Lawrence Alma-Tadema』

Lawrence Alma-Tadema

ローレンス・アルマ=タデマはオランダに生まれ英国で活躍した、19世紀の画家。ウォーターハウス等と並んで好きな画家のひとりです。

ペーパーバックと書いてあったので薄めのコンパクトなのを想像していたのですけど、デカイ。ブ厚い。相当のボリュームです。まあ確かにハードカバーではないですね。印刷も綺麗。少~し暗めのような気もしますが、現物を見たことがないのでその辺はなんとも。

実に幅広い作品が収録されています。習作やスケッチも幾つか見られるのは嬉しいですね。絵はどれも独特の雰囲気があって、人物を描いたたとえドラマティックな作品であってもまるで静物画のような、静謐な印象を与えます。そんな傾向もあって絵によってはやや散漫に思えたり、面白みに欠けていたりもするのですが、それらも全てひっくるめて、壁や床石・衣服の襞などの質感描写や地中海の乾いた大気の表現(行った事ないけど)等々は、そりゃあもう素晴らしいのです。こんな風に描けるようになったらもう死んでもいい・・・って死んでしまったら描けないので困るんですが、それ位憧れてしまいます。

『Icon: A Retrospective by the Grand Master of Fantastic Art』

Icon: A Retrospective by the Grand Master of Fantastic Art

よく見かけるけどちゃんと見たことはなかったフランク・フラゼッタの画集。カラーを中心に幅広い作品が収録されています。改めて見ると構図とか色使いとか、コスチュームのデザインとかデフォルメの仕方とか、どれもこれも凄い。自在に描きまくっている感があります。多くの絵描きに影響を与えているのも当然でしょうね。

収録点数も多くてボリュームは十分ですが、個人的にはペン画をもっと見てみたかったかな(幾つか入ってはいます)。

『タイムライン』

タイムライン〈上〉

映画版の感想を書いた際にお薦めいただき、以来気になっていたのですがようやく読了。

最新テクノロジーで14世紀にタイムスリップした一行が事件に巻き込まれる話なんですが・・・映画版は物凄くアレンジされているんですね。一緒なのはほとんど始めと終わりだけという(笑) 個人的には映画から観てよかった気がします。両方楽しめましたので。読んでから観てたら「えええ~何これ?」てな事になりそう。

映画と比べて展開は複雑で描写も細かいんですけど、中でも現在では○○と考えられているこれこれが実際は××だった・・・という描写は文章の方がより効果的ですね。映像だと臨場感がある一方、どうしても一種のファンタジーとしてとらえてしまう面があるのですが、文章にされるとつい「へえ~そうだったんだ」と了解してしまいます。

『タイムライン』(文庫版)
マイケル・クライトン著:酒井昭伸訳
ハヤカワ書房

『トリスタン・イズー物語』

トリスタン・イズー物語

トリスタンとイゾルデの物語をまとめた作品で、19世紀末に出版されたもののようです。トリスタンの誕生から死に至るまで、中世のベルール、トマ等による断片を元にまとめたもので、その断片の幾つかは先日記事を書いた『フランス中世文学集1 信仰と愛と』に収録されています。読む順序が思い切り逆でした・・・

まとめ方が上手いのか訳が良いのか、とにかくさくさくと読めますのでおすすめです。

『フランス中世文学集1 信仰と愛と』

『愛と剣と』と同じシリーズの第1集。『ロランの歌』、トリスタンもの数篇、トルバドゥールの歌集などが収録されています。

メインはトリスタンものという事になるのでしょうが、いずれも断片です(原作自体残っていないそうです)。これだけで物語全体の概要をつかむのは不可能ですし、内容に関してもまあよくもぬけぬけと・・・なものばかりですので(笑)、かなりコアなファン向きかと思います。

『ロランの歌』は8世紀の史実に題材を採った英雄叙事詩。文字で読むと定型的な言い回しが多くてやや冗長に感じられるものの、合戦の場面などは平家物語を思わせるような高揚した調子があり、読み応えがあります。訳者の方も日本の軍記物を意識されたとか。個人的にはこれが一番良かったかな。

トルバドゥールの歌はかなりの数が収められているのですが、当時の空気を感じさせてくれる・・・という訳には行かず、流し読みしてしまいました。

『フランス中世文学集1 信仰と愛と』
新倉俊一ほか訳
白水社

クレティアン・ド・トロワ『獅子の騎士』 フランスのアーサー王物語

クレティアン・ド・トロワ『獅子の騎士』―フランスのアーサー王物語

『ランスロ』『ペルスヴァル』同様、クレティアン・ド・トロワによるアーサー王ものについて研究したもので、作品の日本語訳も収録されています。『獅子の騎士』はイヴァン(オーウェイン、イウェイン)が妻の怒りを買い、あてもなく冒険を繰り広げる途上でライオンを助けて・・・てなお話。『ランスロ』などと比べるとファンタジー度の高い、とても面白い物語です。

『ペルスヴァル』もそうですが、この『獅子の騎士』は『マビノギオン』に同じ題材による物語があります(「泉の貴婦人」)。両者とてもよく似ているのですが、本書によると底本を同じくして制作された別個の作品であり、両者に直接の関係はないとのこと。著者は『獅子の騎士』を数段上に置いているようで、実際構成の緻密さなどは私のような素人にも感じられるのですけど、面白さという点では「泉の貴婦人」もそう劣るものではないと思います。より幻想的とでもいうのでしょうか。

ともあれ、なかなか読みごたえのある一冊ですなのですが、残念なことにAmazonで見る限り新品の入手は困難のようです。私は図書館で借りて読みました。

クレティアン・ド・トロワ『獅子の騎士』 フランスのアーサー王物語
菊池淑子 著
平凡社

以下はちょっと脱線ぎみの話。

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