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『世界のはての泉』

世界のはての泉 (上) (ウィリアム・モリス・コレクション)

世界のはてにあるという神秘の泉を求めて、小国の王子が冒険を繰り広げる物語。

謎に満ちた美しい女王や主人公を支える賢者、身分は低いものの気高い娘・・・などなど、現代のファンタジーではお馴染みともいえる様ざまなタイプの人物や要素が登場します。冒険を通して主人公が逞しく成長していくところなんかもそうですね。トールキンも影響を受けたんじゃないかな~と感じる部分が読んでいて多くあったのですが、解説によると実際そうみたいです。

個人的に興味深かったのは主人公の出会いと別れ、そして再会が多くの人物について印象深く描かれている点。物語の前半、別れの場面が印象的だと思って読んでいたところ、再会に転ずる物語後半は一層面白く、先を読みたくなるだけの勢いがありました。

ファンタジーの好きな方にはおすすめできる傑作だと思います。

『世界のはての泉(ウィリアム・モリス・コレクション) 』全2巻
ウィリアム・モリス著/川端康雄・兼松誠一訳
晶文社

『The Paintings of John Singer Sargent』

The Age of Elegance: The Paintings of John Singer Sargent (Phaidon Miniature Editions)

ジョン・シンガー・サージェントは19世紀後半~20世紀前半にかけて活躍したアメリカの画家。実はかなり最近まで知りませんでした・・・

大胆な光の捉え方や確かながらも硬くなり過ぎない造形等、とんでもない上手さを持った大変素晴らしい画家と思うのですが、日本での受容度は今ひとつのような・・・肖像画家として一段低く見られてしまっているとか? 最近まで知らなかったからって自分を基準にしちゃいけませんかね(汗 ともかく単に滅茶苦茶上手いというだけではなく、人物の眼に深みがあってとても印象的だと思うんです。

本書も先のウォーターハウス同様のポケットサイズです。こちらはもう少し大きいサイズで見たい気もしますね。

『The Art of J.W. Waterhouse』

Myth and Romance: The Art of J.W. Waterhouse (Phaidon Miniature Editions)

最も好きな画家のひとりであるウォーターハウスの画集です。どこが好きかと言ったらやはり彼の描く女性達の上品でやや翳りのある顔つき。描き過ぎないとこも好きです。大抵ざっくりした部分が残ってる。

この本は小さなポケットサイズですが、絵によっては全体図と部分のアップを載せてあったりして充分に楽しめます。ちなみに特に好きな絵は「The Lady Clare」「The Shrine」など。本書にも収録されています。

『アーサー王物語』

アーサー王物語 (偕成社文庫)

一応子供向けの本ということで、ユーサーとイグレインが「普通に」結婚した事になっていたりしますが、訳者の方が解説で述べられている通り硬質な文体で抵抗なく読めました。内容的にはアーサー王と円卓の騎士の活躍を追ったもので、なかでも聖杯の由来と探求について多くの紙数が割かれています。ちくま文庫版の『アーサー王の死』では削られていた部分でもあり、面白く読みました。佐竹美保さんによる挿絵も大変素敵なものです。

『アーサー王物語 (偕成社文庫) 』
ジェイムズ・ノウルズ著/金原瑞人編訳
偕成社

『輝く平原の物語』

輝く平原の物語 (ウィリアム・モリスコレクション)

婚約者を海賊にさらわれた若者の探索の旅を描いた物語。『世界のかなたの森』と同様、物語はまったりと進行しますが、婚約者の探索という解り易い目的がある分こちらの方がスムーズに入っていける気がします。登場人物のやり取りや不思議な事象など、部分的な描写はとても魅力的なものがありますし、後味の良いラストも好みでした。

また本書ではウォルター・クレインによる20数点の挿絵が収録されており、『妖精の女王』などと同じく装飾的な枠内で完璧に描き尽くされている絵はそれだけでも一見の価値があると思います。

『輝く平原の物語(ウィリアム・モリスコレクション) 』
ウィリアム・モリス著/小野悦子訳
晶文社

『世界のかなたの森』

世界のかなたの森 (ウィリアム・モリス・コレクション)

ウィリアム・モリスというと装飾デザイナーとしての業績がまず思い浮かびますが、同時に経営者であり思想家であり詩人でもあった、大変多才な人物です。

本書は中世ロマンスを思わせる作品で、どことなく「ジェレイントとエニド」や或いは「妖精の女王」などとも通ずる雰囲気を持っています。話の筋自体はどうってことのないもので、馴染めない方には退屈かもしれません。私自身も前半は少々退屈してたのですが、徐々に引き込まれました。こういう不思議な雰囲気のある物語は好きです。

『世界のかなたの森(ウィリアム・モリスコレクション) 』
ウィリアム・モリス著/小野二郎訳
晶文社

『Rackham's Color Illustrations for Wagner's "Ring"』

Rackham's Color Illustrations for Wagner's

前日の記事からの流れでご紹介。「ニーベルングの指輪」をイラスト化したもので、60点余りのカラーイラストと数点のモノクロカットが収められています。どの絵も登場人物の神秘的な表情と躍動感が素晴らしく、大変魅力的です。私は原作の内容を知らずに購入してそれでもいたく感動したものですが、知っていればより一層楽しめることでしょう。

印刷は上質とはいいかねますが、とりあえず見るのに支障はないと思います。少し暗部がつぶれ気味のような気も。原画を見たことないのでわかりませんけど。

ところで、作中例の羽の付いたカブトを被ったワルキューレが大勢登場します。実際にこのようなデザインがあったわけではなくて画家の創作が定着したものらしいですが、誰が元祖なんでしょうね。そう言えばギリシア神話の神ヘルメスもよく羽付きの兜だか帽子だかを被っています。なにか関係あるんだろうか・・・と、少々脱線でした。

『ジークフリート伝説 ワーグナー『指輪』の源流』

ジークフリート伝説 ワーグナー『指輪』の源流

多くの文芸作品で扱われているニーベルンゲン・ジークフリート伝説について述べた、大変読み応えのある本です。「ヴォルスンガ・サガ」「ニーベルンゲンの歌」等を経て、ワーグナーの「ニーベルングの指輪」でクライマックスを迎えるという構成。古今の作品のあらすじ・特徴などのわかりやすい解説を読んでいく中で、作品の枠を越えた伝説そのものの性格や変遷ぶりが浮かび上がってきます。

個人的に嬉しかったのは「指輪」四部作のあらすじが結構くわしく、且つわかりやすく書かれている点。尻込みして手を出せずにいるのですが、ワーグナーってスゴイんだなあというのが本書を読んでの素直な感想です。うーん、やっぱ一寸観てみたい。

『ジークフリート伝説 ワーグナー『指輪』の源流』
石川栄作著
講談社学術文庫

『ドラゴンランス』

ドラゴンランス(6) 天空の金竜

たぶん古典に分類されるんであろう作品。天から帰還した暗黒の女王に立ち向かう、さまざまな種族からなる仲間たち。女王の僕である邪悪なドラゴンを倒すために、タイトルにある伝説のドラゴンランスを蘇らせ・・・てな具合に話は展開します。

作品の一番の魅力は、今やファンタジーの世界ではお約束とも言えるキャラクター達でしょう。ドワーフ、エルフ、人間の騎士などなど、それぞれの行動規範にのっとって存分に活躍してくれます。もっとも「全員」が魅力的というわけにも行かないようで・・・よりによって主人公とも言うべき、一行のリーダーであるタニスに全く魅力が感じられませんでした。

彼には、ハーフエルフの私生児という出自だったり人間・エルフの女性との三角関係だったりと、そこらの脇役とは訳が違うと言わんばかりの設定が付与されています。恐らく作品に幅と深みを出そうという意図があったと思うのですけど、この点については成功しているとは言いがたいんじゃないでしょうか。彼が前面に出てくると途端に読むのがおっくうになるんですよね。書き手が設定を消化するのに手一杯という感じで、これは全く個人的な感想でもなかろうと思うのですが。

他にも、お前よりレイストリン(魔法使い)の方がよっぽど役に立ってるじゃん、とか言いたいことはまだ出てきそうなんですけど、他のキャラクターの活躍はそうしたことを補って余りあるものですし、ドラゴンの大部隊というモチーフは想像力を大いに刺激してくれます。作品自体は大変面白かったので悪しからず。

『ドラゴンランス』1~6巻
マーガレット ワイスほか 著/安田 均 訳
エンターブレイン

『アイスウィンド・サーガ』

アイスウィンド・サーガ〈1〉 悪魔の水晶

ダークエルフの主人公ドリッズトとその仲間たちが活躍する物語です。舞台となるフォゴットン・レルムはダンジョンズ&ドラゴンズというテーブルトークRPGのために設定された世界。

様々な部族が入り乱れての大規模な攻城戦は、指輪物語のヘルム峡谷の戦いを彷彿とさせますが、戦闘が序盤と終盤、同じ場所で全く異なるシチュエーションで繰り広げられるのがミソです。物語の進め方としてはイベントの発生→解決の繰り返しで結構ワンパターンというか、良くも悪くもゲームっぽい印象を受けるのですけど、そんな事はお構いなしで先を読みたくなる面白さがあります。

この作品、廃刊になっていたシリーズを順次復刊させているようなのですが、現在出ているのは3巻まで。エピソードとしてひと区切りついてはいるものの、早く続きが読みたいもんです。

『アイスウィンド・サーガ』1~3巻
R.A.サルヴァトーレ著/風見潤 訳
アスキー/エンターブレイン