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『鬼平犯科帳』『剣客商売』

鬼平犯科帳〈1〉 (文春文庫)

仕事で池波正太郎の『鬼平犯科帳』に触れて以来すっかりはまってしまい、鬼平全24巻と『剣客商売』全16巻を続けて読み終えました。現在は剣客商売の番外編を読んでる最中。何よりストーリーが面白いし、加えて読ませるのがとても上手い。どちらも同じ位面白いと思いますが、『剣客商売』は後の方にくると何となく著者の疲れが滲み出ているような、そんな印象は受けました。

剣客商売 (新潮文庫―剣客商売)

個人的に惹かれるのは著者の人間観とでもいった部分で、例えば「女という生き物は過去も未来もない、あるのは現在のみ(確認してないのでちょっと違うかも)」なんて事を平蔵に言わせている。他にも結構容赦無い表現が多くて、まったく女ってやつは・・・となり、そんな女に惚れる男ってやつは・・・となる。ただそれを非難がましい目で見ているかと言うとそうではなくて、あるがまま受け入れているのが面白い。人間というのは矛盾した生き物だ、というのも再三語られていますが、これについても同様。自分には無理だなあと思う一方、その所為で余計魅力的に感じられるというか・・・要はカッコイイんですよネ。

『Bouguereau』

Bouguereau

久しぶりに画集を購入。19世紀フランスアカデミズムの超絶技巧画家たるブーグローです。

ブーグローのどこらへんに惹かれるのか。ひとつはどこか翳りのある表情、でしょうか。結構子供の絵なんかも描いているのですけど、大体なにかを抱えている表情をしている。モデルが緊張してたんじゃね?というのはこの際なしの方向で。屈託ない笑顔もあるにはあるものの、逆にそういう絵はあまり面白くないように感じます。

もうひとつはきめ細やかな肌の質感と・・・肉感(笑)。 絵画として理想化されながらも、妙ななまめかしさがあるのですね。特にお腹のぽっこり具合をこれほど絶妙に描ききった画家を、私は他に知りません。うむ。

印刷の質はとても良いと思います。その分、WEB画像で見ていた分には気にならなかったちょっとした不自然さみたいなものが気になったりもしましたが。モデルにポーズを取らせて架空の場面を描き出すという手法は、描写に一切妥協がないだけにどうしても不自然な部分も出て来るのでしょう。とは言えこれだけの画家、知ってる人は知っている的ポジションに追いやられているのはちょっと残念な気もします。

『100万回生きたねこ』

100万回生きたねこ (佐野洋子の絵本 (1))

美容室に置いてあったので、懐かしくて手にとってみた。私はこの絵本、子供の頃に読んだことがある。子供の頃というと・・・30年くらい前?(笑 昔読んだ絵本の事など随分忘れてしまっているだろうが、この本は覚えている。実際読み返しても殆ど全てのページで「ああ、こんなだったねえ」と。中でもとりわけ強く残っていたのが、嫁さんねこが死んで泣いている絵。

奥付を見たら、90何刷とか。ひえー。何十年前だかに読んだのを覚えているくらいだし、今読んでみても素晴らしい作品だと思う。でもこれだけ沢山の絵本が出ている中で、この本の一体どこが、出たきり埋もれていく本と違うのかしら。

『近松に親しむ―その時代と人・作品』

近松に親しむ―その時代と人・作品 (IZUMI BOOKS)

近松門左衛門については、読んだ事はないものの興味を持っておりました。ただいきなり原文から入ろうにも、今ひとつ読み易そうなものが見付からず・・・

本書は近松の生涯から「曾根崎心中」をはじめとする主な作品のあらすじに至るまで、とてもわかり易く述べられています。あらすじの随所に挿入される原文に触れ、是非原文で通読してみたいと思いました。

『近松に親しむ―その時代と人・作品』
松平進著
和泉書院

『ドン・キホーテ』

ドン・キホーテ〈後篇3〉 (岩波文庫)

田舎紳士ドン・キホーテと従士サンチョ・パンサによる冒険を描いた、セルバンテスの有名な作品です。

冒険とは言っても、そのほとんどはドン・キホーテの狂気や周りの者の作為によって仕立て上げられたもので、実際に華々しい活躍をするといったくだりはほぼ皆無です。偽りの冒険と、それに伴い交わされる登場人物たちの会話の内容を楽しむ、といった感じでしょうか。物語終盤、真の冒険に遭遇しながらも精彩を欠くドン・キホーテに対し「虚構の世界でのみ有効な、しかし現実の前では崩れ去る存在であったのだ」と指摘する訳者解説は印象的でした。

物語は大きく前編(1~3)と後編(4~6)に分かれ、描かれた年代にだいぶ開きがあるものらしく、趣も随分異なります。

前編においては、セルバンテスの視点は周りの正気な人々―司祭や親方など―の側にあり、ドン・キホーテの突飛な言動を面白がりつつも愛情をもって眺めている、といった風なのですが、後編になるとドン・キホーテは作者の分身としての性格が強くなり、自身の境遇や主張がより濃く投影されているように感じられます。それだけに面白可笑しくは書かれていても、滑稽というよりは深刻な、どこかやるせなさの漂う・・・そんな印象を受けました。

騎士道物語のパロディ云々というより、ドン・キホーテという人物を創り出した事そのものを偉業と言うべきで、全6巻という結構な分量ながら興味のある人にとっては読む価値があるかと思います。訳も素晴らしく「それがし~でござる」調が気になる人は気になるかもしれませんが、明快でリズムがあって、とても読み易いものとなっています。

『ドン・キホーテ(全6巻・岩波文庫)』
セルバンテス著/牛島信明訳
岩波書店

『銀のうでのオットー』

『ロビン・フッドのゆかいな冒険』などと同様、ハワード・パイルが文章、挿絵共に手掛けた作品。

銀の義手を着けた騎士が敵をばったばったとなぎ倒す痛快な物語・・・なんてのを想像していたら全然違って、やさしい心を持った少年が主人公、そして結末こそ光の差すものでホッとしましたが、血と死の薫り漂う、全体的にかなり暗いお話です。裏を返せば「暗黒の中世」などと呼ばれた、そういう雰囲気がよく出ているとも言えます。これは元となるお話があったのでしょうか・・・?

挿絵についてですが、技法の面では『ロビンフッド』と比べてよりオーソドックスな印象です。絵そのものは大変素晴らしく、各章冒頭の遠景を描いたものやレリーフ調のもの、本文中の迫力ある挿絵、いずれもパイルの技術とセンスを堪能出来ます。

Amazonでは現在入手しづらいようですが、興味のある方は図書館で借りるなどして是非。

銀のうでのオットー (偕成社文庫 (3110))
ハワード・パイル著/渡辺茂男訳
偕成社

十二夜

以前シェイクスピア物語であらすじを読み面白そうだと思っていた本作をようやく読みました。生き別れた双子の兄妹を軸に繰り広げられるドタバタ劇とでも言いますか、軽くて明るく楽しいお話です。それなりのお金を掛けて上手く映画化したらとても楽しい作品になりそうですが、まあ商業的に成功するかどうかはなんとも。ストーリーとは関係の無いところで駄じゃれじみた言葉遊びのテキストが多くて個人的には少々鬱陶しいと感じたものの、訳は雰囲気を壊さないように上手く処理されているように思いました。

十二夜 シェイクスピア全集 〔22〕 白水Uブックス
小田島雄志訳/白水社

『雪明かり』

新装版 雪明かり (講談社文庫)

藤沢周平の作品を読んだのは実は初めてです。映画その他で興味は持っていました。本書は短編集でどの話も面白いのですけど、どれも心の内の痛いところに触れてきますね。。

『新装版 雪明かり』
藤沢周平著
講談社文庫

『One Hundred Aspects of the Moon: Japanese Woodblock Prints by Yoshitoshi』

One Hundred Aspects of the Moon: Japanese Woodblock Prints by Yoshitoshi

最近興味を持っている画家に、月岡芳年(大蘇芳年)がいます。彼の絵を初めて見たのは「血まみれ芳年」のイメージで真っ赤っ赤な絵が紹介されていたもので「うわ、勘弁」という感じだったのですけど、実は物語や歴史・伝説上の人物の一場面を描いたものが数多くあり、これが大層面白い。大胆な構図やそれまでの浮世絵の文法をぶっ壊すようなリアルなポーズなどなど、中でも画面を目一杯に使うやり方や手前の人物に関連づけた遠景の処理などはどこかウォルター・クレインあたりを思わせるところもあって、ひょっとしたらどこかで繋がりが・・・などと妄想してみたりするのでした。

本書の原題は『月百姿』。月に絡めた100に及ぶ作品群です。全部が全部空に浮かぶお月様という訳ではなくて兜の三日月形の前立なんかも混じっているあたり、センスを感じます。この画集については先に述べたクレインっぽい感じとは少々趣が異なり、よりシンプルな構図の妙が楽しめます。

もっと色々な作品を見てみたいなあ、と探してみて見つけたのがこちらのサイト。個人的に制作されたサイトのようですが、月岡芳年に限らず驚くばかりの充実っぷりです。なお、該当ページに直接リンクを張らせていただきました。

2009/06/10追記

奇しくも太田記念美術館にて、6/26まで『 芳年-「風俗三十二相」と「月百姿」-』なる展示が行われているようです。スケジュール的に微妙だけど・・・これは観たい! 

2009/06/24追記

観て来ました!やはり現物を観るとまた違った印象を受けますね。あんなに細かいとは思ってなかったなあ。いや凄い。

『山羊座の腕輪(ブレスレット)―ブリタニアのルシウスの物語』

山羊座の腕輪(ブレスレット)―ブリタニアのルシウスの物語

ローマ帝国支配下のブリテンを舞台とした、あるローマ人の一族のエピソードを綴った物語。一族に代々受け継がれてゆく山羊座の腕輪が、エピソードを繋ぐ小道具となっています。それによりエピソードのひとつひとつはちょっとしたお話でありながら、全体としてはローマ帝国の変遷や、ローマ人がブリテン人と交わり現地化していく様子なども覗われるスケールの大きな物語となっているところがとても秀逸で、面白いと思います。

『山羊座の腕輪(ブレスレット)―ブリタニアのルシウスの物語』
ローズマリ・サトクリフ著/山本史郎訳
原書房