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『銀のうでのオットー』

『ロビン・フッドのゆかいな冒険』などと同様、ハワード・パイルが文章、挿絵共に手掛けた作品。

銀の義手を着けた騎士が敵をばったばったとなぎ倒す痛快な物語・・・なんてのを想像していたら全然違って、やさしい心を持った少年が主人公、そして結末こそ光の差すものでホッとしましたが、血と死の薫り漂う、全体的にかなり暗いお話です。裏を返せば「暗黒の中世」などと呼ばれた、そういう雰囲気がよく出ているとも言えます。これは元となるお話があったのでしょうか・・・?

挿絵についてですが、技法の面では『ロビンフッド』と比べてよりオーソドックスな印象です。絵そのものは大変素晴らしく、各章冒頭の遠景を描いたものやレリーフ調のもの、本文中の迫力ある挿絵、いずれもパイルの技術とセンスを堪能出来ます。

Amazonでは現在入手しづらいようですが、興味のある方は図書館で借りるなどして是非。

銀のうでのオットー (偕成社文庫 (3110))
ハワード・パイル著/渡辺茂男訳
偕成社

『松本清張の世界 (別冊宝島) 』

松本清張の世界 (別冊宝島1638)

こちらでは久しぶりのような気もするお仕事情報です。

宝島社さまより今月発売の「松本清張の世界 (別冊宝島)」においてカットを3点描かせていただきました。右はそのひとつで松本清張と太宰治の架空対談、という記事のもの。

『松本清張の世界 (別冊宝島1638)』
宝島社

十二夜

以前シェイクスピア物語であらすじを読み面白そうだと思っていた本作をようやく読みました。生き別れた双子の兄妹を軸に繰り広げられるドタバタ劇とでも言いますか、軽くて明るく楽しいお話です。それなりのお金を掛けて上手く映画化したらとても楽しい作品になりそうですが、まあ商業的に成功するかどうかはなんとも。ストーリーとは関係の無いところで駄じゃれじみた言葉遊びのテキストが多くて個人的には少々鬱陶しいと感じたものの、訳は雰囲気を壊さないように上手く処理されているように思いました。

十二夜 シェイクスピア全集 〔22〕 白水Uブックス
小田島雄志訳/白水社

Illustration更新

「Statues」に大鎧を追加。このシリーズは出来るだけ同程度の手間で描くというのも目標のひとつにしているのですが、これはちょっと無理でした(^^;

眼鏡

プリズム入りの眼鏡を作りました。6年位前に斜位があるのを知ったのですが、それが目の疲労の一因となっている可能性があるという事で、処方して貰ったのです。ここのところ眼精疲労が酷く、これから先も絵を描き続けられるのか、仕事の有無とは別の次元で不安に感じる事があります。改善されるとよいのですが。

『雪明かり』

新装版 雪明かり (講談社文庫)

藤沢周平の作品を読んだのは実は初めてです。映画その他で興味は持っていました。本書は短編集でどの話も面白いのですけど、どれも心の内の痛いところに触れてきますね。。

『新装版 雪明かり』
藤沢周平著
講談社文庫

『One Hundred Aspects of the Moon: Japanese Woodblock Prints by Yoshitoshi』

One Hundred Aspects of the Moon: Japanese Woodblock Prints by Yoshitoshi

最近興味を持っている画家に、月岡芳年(大蘇芳年)がいます。彼の絵を初めて見たのは「血まみれ芳年」のイメージで真っ赤っ赤な絵が紹介されていたもので「うわ、勘弁」という感じだったのですけど、実は物語や歴史・伝説上の人物の一場面を描いたものが数多くあり、これが大層面白い。大胆な構図やそれまでの浮世絵の文法をぶっ壊すようなリアルなポーズなどなど、中でも画面を目一杯に使うやり方や手前の人物に関連づけた遠景の処理などはどこかウォルター・クレインあたりを思わせるところもあって、ひょっとしたらどこかで繋がりが・・・などと妄想してみたりするのでした。

本書の原題は『月百姿』。月に絡めた100に及ぶ作品群です。全部が全部空に浮かぶお月様という訳ではなくて兜の三日月形の前立なんかも混じっているあたり、センスを感じます。この画集については先に述べたクレインっぽい感じとは少々趣が異なり、よりシンプルな構図の妙が楽しめます。

もっと色々な作品を見てみたいなあ、と探してみて見つけたのがこちらのサイト。個人的に制作されたサイトのようですが、月岡芳年に限らず驚くばかりの充実っぷりです。なお、該当ページに直接リンクを張らせていただきました。

2009/06/10追記

奇しくも太田記念美術館にて、6/26まで『 芳年-「風俗三十二相」と「月百姿」-』なる展示が行われているようです。スケジュール的に微妙だけど・・・これは観たい! 

2009/06/24追記

観て来ました!やはり現物を観るとまた違った印象を受けますね。あんなに細かいとは思ってなかったなあ。いや凄い。

『山羊座の腕輪(ブレスレット)―ブリタニアのルシウスの物語』

山羊座の腕輪(ブレスレット)―ブリタニアのルシウスの物語

ローマ帝国支配下のブリテンを舞台とした、あるローマ人の一族のエピソードを綴った物語。一族に代々受け継がれてゆく山羊座の腕輪が、エピソードを繋ぐ小道具となっています。それによりエピソードのひとつひとつはちょっとしたお話でありながら、全体としてはローマ帝国の変遷や、ローマ人がブリテン人と交わり現地化していく様子なども覗われるスケールの大きな物語となっているところがとても秀逸で、面白いと思います。

『山羊座の腕輪(ブレスレット)―ブリタニアのルシウスの物語』
ローズマリ・サトクリフ著/山本史郎訳
原書房

『鏡の国のアリス』

鏡の国のアリス (偕成社文庫 2065)

続編という訳ではないようですが、「不思議の国のアリス」同様、アリスを主人公に書かれた作品。「不思議の国のアリス」は今読んでも大変面白いのですけど、こちらは・・・言葉遊びの要素が強すぎで、日本語で読んでも今ひとつ面白さが理解出来ません。チェスにも馴染みがないですしねえ。

テニエルの挿絵はペン画としては大変見事なものの、肝心のアリスは正直可愛いとは言い難いです。可愛いつもりなのに何故か怖くなってしまったフランス人形みたいな(^^; でもマンガを思わせる大胆な表現とか、絵そのものは本当に素晴らしいと思います。

以前ラッカムの挿絵による「不思議の国のアリス」を紹介しましたが、こちらはどうも描いていないっぽいですね。

『鏡の国のアリス』
ルイス・キャロル著/芹生一訳
偕成社

『トロイア戦記』

トロイア戦記 (講談社学術文庫)

トロイア戦争を詠ったホメロスの「イーリアス」は、それ自体はヘクトルの死をもって終わっています。その後のアキレウスの死や木馬作戦など、事の顛末はよく知られているところですが、作品として「イーリアス」と「オデュッセイア」または「アエネーイス」の間を埋めるのが本書です。

語り口調は「暁の女神が~」とか「魂が飛び去った~」などと「イーリアス」っぽさを感じさせるものです。話もとにかく面白い。個人的なクライマックスはアキレウスの死やトロイアの陥落以上に、アイアスの発狂と自害の巻ですね。もっともトロイア陥落のさまも、映画でもこうはなかなか、という位に迫力のある描写です。それにしても登場人物等の語る言葉がいちいち深い。憎しみや悲しみ、怒りや恨みに捉われている人は、何かしら感じるところがあるかもしれませんね。

『トロイア戦記』
クイントゥス著/松田治訳
講談社学術文庫